BARism#190705

サザンカンフォートの憂い、145年前のクラフトリキュールニューオーリンズ発祥の人類にとって最も重要な文化的遺産を挙げるとしたら、『JAZZ』と『サザンカンフォート』だろう。近年、酒類業界ではクラフト物が流行っている。これは、上等で無難なものに飽きた市場と、禁酒法時代への憧れから生まれた流行、或いは、ウィスキーより短期間で商品化したい企業の色気ない陰謀であろう。企業だけでなく、バーテンダーが自分の店の為の独自の酒を作ったりもする。そんなクラフトというものは過去にもあった。1874年、ニューオーリンズのバーテンダー、マーティン・ヘロンがバーボンにフルーツやスパイスを添加してサザンカンフォートを作り出した。彼はミクソロジストの先駆けで、自作のサザンカンフォートをベースにカクテルを考案し売り出した。『セントルイス・カクテル』という。後にジャニス・ジョプリンが好み、ステージでも携えていたという話もサザンカンフォートの人気に一役買っているだろう。共に、荒い口当たりの中に感じる何処か甘美な芯のようなものがお似合いのコンビである。27歳でヘロイン中毒で死んだジャニスも、長生きしたならば丸くなっていたのだろうか。サザンカンフォートは、当時のジャニスが飲んだら失望するだろう程に、今は柔らかくなっている。元々は50度でバーボンから作られていたサザンカンフォートは、今や21度の中性スピリッツが主流になってしまった。市場のニーズと企業の思惑が一致した結果ではあるが、文化の破壊のように思えてならない。誰かが『JAZZは死んだ』と言っていたが、サザンカンフォートも死んでしまったのかもしれない。BARは時代遅れで良い。こういった文化を守ることができる数少ない場でもあるからである。だから敢えて言いたい。デートのツレに、“飲み易いもの”を薦めようとする紳士諸君。どうかそんな無粋で初心者染みたオーダーをしないでおくれ。そんなものは居酒屋かカジュアルバーに放っておけば良いのだ。人生、少しの苦味は必要だろう?それを共に味わえないようならきっと上手くはいかない。折角BARに来たのなら、骨太の本物の酒で試してみては如何だろう?心地良さだけを求めたならば、低アルコール化の先に酒の文化は失われてしまうだろう。サザンカンフォートを死なせてはならない。(西宮聖一朗)

Peynet’s Schedule on Jul.

▪️店休日

18日(木)、28(日)

▪️イベント

26日(金)4th Friday Night Concert

21:30start

pianist / 谷坂仁美

music charge / 1,000円

▪️《特別企画》THINK! Leonard Bernstein

8月25日(日)21:30start

アメリカの作曲家であり、指揮者であり、教育者であった、レナード・バーンスタインの誕生日。

個人的な思い入れなのだけれども、より多くの人にレナード・バーンスタインという人物を知ってもらいたく、去年から始めた企画。

演奏:バーンスタイン作【クラリネットソナタ】他

限定カクテル:【レナードバーンスタイン・パンチ】