BARism

【男は黙ってジャックローズ】

男酒・女酒、というものがある。

今時のいい加減な団体からしたら、格好な炎上の餌食となろう台詞だが、やはりBARというところは洒落た男と女でありたい場所であるのだ。

私は『ジャックローズ』というカクテルが好きで、これほどセクシーな男酒はないと思っている。1900年代初頭に生まれた、美しい朱色のクラシックカクテル。一見して、細い女の指先に似合うように思われるだろうが、これは不恰好な男の手に握られる一輪の薔薇なのである。以下に、ジャックローズに纏わる話を幾つか書き連ねようと思う。

1900年代初頭のニューヨーク。大恐慌に繋がる不景気の真っ只中。マフィアの稼ぎの多くが違法な酒場や賭場が中心であった頃。暗黒街と呼ばれた物騒な地域の違法カジノのギャンブラーであった男が、ジェイコブ・ローゼンツァイク(1876-1947)という。

東部を仕切っていたレノックス街のギャングと繋がりをもち、1912年の警官殺し、ローゼンダール殺人事件にも関与したといわれる札付きである。その彼が愛した酒というのが、アップルジャックを使ったカクテルで、彼のその街での通り名『ジャックローズ』がその名になったという。不穏な時代に、金持ちを招き、警察の目を掻い潜りながら酒と博打を供する。カウンターで一輪の薔薇を携えた彼の姿を想像してみる。ハードボイルドというやつか、ジャックローズというカクテルは男の浪漫を擽ぐるわけである。

もうひとつの由来話がある。それは、このカクテルの美しい色合いから。ジェネラルジャックミノーという薔薇の品種(仏/1853)がある。その色合いを模したというのだ。さて、次はこの薔薇の話に移ろう。この名は、ナポレオン戦争時、義勇兵を統括した将軍の名、ジャン・フランシス・ジャックミノー(1787-1865)から命名されたという。

ナポレオンに忠誠を誓い、エルバ島の幽閉から帰還した際には槍騎兵を組織したという。ナポレオン最後の戦い、ワーテルローの前哨戦であるカルトブラで輝かしい戦績を上げた。ナポレオン失脚後も、バル・ル・デュックに製糸工場を開き、敗フランス軍人の職の世話をしたという。薔薇の命名が将軍の生前であったことが、その人望を表しているように思う。使命に賭した男の心意気に飾る花。無骨な指にこそ映えるというものである。

カクテルの普及は、しばしば文学作品に活路を見出す。酒飲みに知らぬ者はいない文豪ヘミングウェイの代表作『日はまた昇る(1926)』では、主人公の新聞記者がパリのホテルのBARで女を待つ、その時にオーダーしたのがジャックローズであった。時代は第一次世界大戦の頃。やはり背景には不穏な時代が付き纏う。

最後に、レシピ上の余談をひとつ。一般的に、日本のレシピでは、カルバドスにライムジュースとグレナデンシロップというのが基本とされる。しかし、ローゼンツァイクもヘミングウェイも、ライムジュースではなくレモンジュースで表記しているのである。きっとジャックローズが日本に紹介された頃、カクテルというものは高価で成功の証とみられ、より高価な食材を使うことに価値があったのであろう。戦後復興期の浪漫である。そんな見栄張りもまた、男酒であるように思う。

長い蘊蓄はさて置き、男は黙ってジャックローズ、なのである。(西宮聖一朗)

Peynet’s Schedule on Mar

◾︎店休日◾︎

3月14日(木)、3月17日(日)

通常営業は、20時ー翌2時となります。尚、店都合による多少の変動は御了承下さい。

御予約・営業確認等は、0467-44-8350まで。

▪️4th Friday Night Concert◾︎

3月22日(金)21:30スタート

◾️ペイネの愉快な音楽隊-アマチュア演奏会-

3月31日(日)15:30-

入場:1,500円(チャージ・パンチカクテル1杯含み)