プランターズパンチ彼是

Tikiカクテルの起源にもあたるであろう一杯。『プランターズ・パンチ』という。今で言うTikiカクテルというのは、ドンビーチやトレーダーヴィックスのゾンビカクテルやマイタイカクテルに始まる。1930〜1940年代頃の話である。Tikiというのはポリネシア文化における女神の名前から転じて、ハワイを代表とする南国をイメージしたカクテルや店作りを総じて表現している。上記ふたりのバーテンダーは、そういった意味でカクテル作りや店作りを実践した。が、あくまでポリネシアの“イメージ”、である。Tikiカクテルの殆どはラムをベースとするが、ポリネシア文化圏でラムの製造は盛んではない。Tikiカクテルの祖、といえるふたりのバーテンダーは、それぞれカリブ海域でラムを学んでいる。それがのちにTikiカクテルを作るうえで土台となったという訳である。さらに付け加えるならば、ふたりが手掛けた料理も実はポリネシアというよりは中華であった。この適当さも、ひとつの面白味と捉えた方がバーを楽しむには向いている。さて、カリブ海域はラムのメッカであり、故郷である。大航海時代に、黒人奴隷の悲劇と海賊の暗躍によって築き上げられた。正確には、まず始めにネイティブ・アメリカンの犠牲が先行しているのであるが、ここでは割愛する。2010年頃だったか、バー業界でながく廃れていたTikiカクテルが突然再燃した。世界的な動きである。突然Tikiという言葉が広まったものだから、誰も意味を知らない。挙句、NeoTikiなどのワードが現れ、都合の良い定義がなされた。私の記憶に残る限りは、①ラムをベースとする、②フルーツをふんだんに使う、③大容量である、④南国っぽい、⑤海賊っぽい、⑥遊び心のあるネーミング、⑦火を使うと盛り上がる、⑧音楽はレゲエ、といったところだったろう。今から思えば、茶番である。こういった拡大解釈の中で、『プランターズ・パンチ』はTikiカクテルとして立ち位置を確立している。もとい、ドンビーチもトレーダーヴィックスも、きっとプランターズ・パンチを学んだ上にTikiカクテルを生み出したことであろう。証拠に、ふたりのオリジナルレシピによるプランターズ・パンチも存在する。プランターズ・パンチの詳細はあまり知られていない。資料もまちまちなことを言っており信憑性に乏しい。レシピも多数存在して掴み所がない。もともと労働者の飲み物だったようで、自然発生に近かったのかもしれない。なので、ここでは紙面の証拠を追うに留めておく。取り敢えず、発祥はプランターズホテル(現プランターズハウス)といわれている。由緒を示す余談であるが、バーテンダー界で“プロフェッサー”ともいわれているジェリートーマスもかつて働いていたようで、かのトムコリンズ・カクテルもここの名物だと言い張っている。さて、プランターズパンチに関する最も古い文献は、1878年に英国の週刊誌Fanに掲載された記事である。そこでは、レモン:1、シュガー:2、ラム:3、水:4のレシピで紹介されている。ドンビーチがゾンビーカクテルを発表する60年も前のことである。30年後、1908年には米国でニューヨークタイムズにも紹介された。この時のレシピは、酸味と甘味のバランスが逆転され、幾分さっぱりしたものになっている。が、然程の変化がないことが興味深い。10余年後、米国は禁酒法時代に突入し、カクテルは全盛期を迎える。そこで様々なヴァリエーションが生まれ今に至る訳である。サボイカクテルブック版、ドンビーチ版、トレーダーヴィックスバーテンダーズガイド版など。特にトレーダーヴィックスのレシピから、グレナデンシロップやホワイトキュラソーなどが加えられ、現在のTikiカクテル風な仕上りになっている。レシピの変容とカクテルの隆盛の相関がわかりやすく示された証拠のひとつである。どのレシピを扱うかを指標に、バー巡りを楽しまれたら幸いである。(西宮聖一朗)

【Peynet’s Schedule on NOV】

◾︎店休日◾︎

11月8日(木)、11月18日(日)、11月19日(月)

通常営業は、20時ー翌2時となります。尚、日により、店都合による多少の変動は御了承下さい。

▪️4th Friday Night Concert◾︎11月30日(金)21:30スタート

▪️ボジョレーヌーボー会(要予約)◾︎

11月15日(木)22時スタート会費:6,500円